社会の実問題を発見し解決するデザイン活動のために、関係する専門家あるいはステークホルダーに依頼してチームを構成し、ワークショップを連続的に実施することで目標を達成します。本プログラムではこれを「オープンイノベーション」と呼びます。オープンイノベーション実習では、履修者がこの「オープンイノベーション」のためのチームを構成しマネジメントする役割を担います。これによって、コミュニケーション能力やマネジメント能力を鍛え、実践を通じてデザイン活動を成功に導くためのデザイン理論やデザイン手法を身に付けます。*1
オープンイノベーション実習には、本プログラムが企画するプログラム主導型と、履修者の所属する研究室が企画する研究室主導型とがあります。プログラム主導型のテーマは、デザインイノベーションコンソーシアムの会員団体である企業や自治体が実際に抱えている課題を扱い、京都大学を始めとするさまざまな分野の高度な専門家の知のネットワークを最大限に活用し、その解決策をデザインします(コンソーシアムのオープンイノベーションのページへ)。
これまでにプログラム主導型として実施されたテーマは次のとおりです。
テーマ一覧(プログラム主導型)
Title / タイトル | Collaborator / 実施協力者 | Year / 実施年度 |
---|---|---|
空間を超えたコミュニケーションのデザイン Communication design beyond distance |
(株)セック Systems Engineering Consultants Co., LTD. |
2018年度後期 2nd semester in 2018 |
将来の高齢者向けサービスのデザイン Designing future services for elderly people |
パナソニック(株) Panasonic Corp. |
2017年度後期 2nd semester in 2017 |
近未来の建築空間・建設現場のイノベーションデザイン Innovation design for architectural space and construction sites in near future |
(株)竹中工務店 Takenaka Corp. |
2017年度前期 1st semester in 2017 |
街角カメラを活用した新しいサービスのデザイン Designing new services using town cameras |
NEC NEC Corp. |
2016年度前期 1st semester in 2016 |
将来の都市生活・空間を変革するエレベータのデザイン Designing future elevators that bring about innovative changes in the urban life and space |
三菱電機(株) Mitsubishi Electric Corp. |
2015年度前期 1st semester in 2015 |
フレキシブルディスプレイを活用した新たな製品・サービスの創出 [試行] Creating new products and services using a flexible display [Preliminary] |
パナソニック(株) Panasonic Corp. |
2014年度後期 2nd semester in 2014 |
*1: 問題発見型/解決型学習(FBL/PBL)では異領域の履修者がチームを組んで問題の発見と解決にあたるのに対し、オープンイノベーション実習では専門家のチームを履修者がマネジメントする点が異なります。履修者は、まず修士配当科目であるFBL/PBLを、そして博士配当科目であるオープンイノベーション実習を経験し、最後に本プログラムの総仕上げとなる博士研究「リーディングプロジェクト」に取り組みます。
インターネットのブロードバンド化が進展し、携帯網は5Gの解禁を目前に控え、情報処理技術的には、物理的距離を意識しなくて良い環境が整いつつある。また、メール、SNS、TV会議システムやSkype、Slack等々、コミュニケーション手段も多様になり、インターネット出現以前に比べ、空間を超えた人と人との意思疎通が容易になっている。しかし、例えばビジネスの現場では、遠隔からの会議への参加において、会議場所での臨場感がネットワーク越しには伝わらず、遠隔からの発言タイミングに戸惑ったりしており、Face to Faceの会議に匹敵する環境にはなっていない。このように、情報技術の進展はバーチャルな世界での可能性を最大限に広げてきたが、その先のリアルな世界には依然として十分に入り込めていない。本実習では、上記のような課題を解決する、新しいコミュニケーションのあり方を考える。
実施内容 (報告書準備中)
2025年には、日本では、3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になる超高齢化社会が訪れる。「介護離職」「介護難民」「特別養護老人ホームの待機者問題」など、高齢者のケアに関わる諸問題が叫ばれる中、高齢者が元気に自立し続けられる社会を構築することが求められる。例えば、昨今シニア層の健康意識は高まってきているものの、自身の健康のために自律的に行動している層は限定的であり、様々な取り組みが必要である。一方で、30~40年先には高齢者数は減少に転じるほか、医療技術やAI・ロボット技術の進化などにより、高齢者向けサービスのニーズは現在とは変化することが予想され、これらを考慮した取り組みが求められる。本実習では、30~40年先の未来を想定し、将来の社会的ニーズや技術の進展、人口構成の変化などを踏まえた上で、法制度も含めた将来の高齢者のケア体制の変化、ケア施設が高齢者に提供すべきサービス、あるいは、高齢者の生活行動を変えるような、健康維持のための新しい商品やサービス等を検討する。
実施内容 (報告書準備中)
近年の建築空間においては、エネルギー問題、空き家問題、少子高齢化問題などを背景として、省エネ化・建物ストックの活用・少子高齢化社会への対応等の社会的ニーズが高まるとともに、健康増進などの新しいニーズも生まれてきており、ユーザーにとって付加価値の高い建築物が求められている。また、建設現場においては、建設作業員の不足が問題となっており、働く若者にとっての魅力向上や、建設工事における生産性向上が求められている。本実習では、これまでの建築の枠にとらわれず、さまざまな専門分野の技術や知見を活用し、新しい建築空間、あるいは建築現場のアイディアを検討する。
近年、街角において多数のカメラの設置が進んでいる。これらの固定カメラに加えて、今後、車やドローン(無人航空機)に搭載された移動カメラが普及することにより、空間的なカバー率が拡大すると考えられる。さらに、データ記憶技術の進展に伴い、長期間にわたる映像の蓄積も可能になると考えられる。このように、膨大な数のカメラが接続された新しいインフラが出現しようとしている一方で、現状ではこれらのカメラは防犯や捜査などの監視目的で用いられることが多く、一般的にはネガティブなイメージが付きまとう。そこで本実習では、この新しいインフラの“ポジティブな”活用の可能性を探索し、新しい市場を開拓する。そのために、様々な視点(専門性、世代)を持つメンバーからなるオープンイノベーションチームを編成し、ワークショップを連続的に開催する。
19世紀に近代エレベータが発明されて以来、エレベータには数々の改良が加えられ現在の姿に至っており、その基本構成は成熟し完成の域に達しているように思われる。本プロジェクトでは、課題提供者である三菱電機(株)とともに、産学連携のオープンイノベーションにより将来の都市生活や空間のあるべき姿を創造し、その中でエレベータ、あるいはそれを代替する移動手段が果たすべき役割を検討し、新しい市場を切り開くための突破口を探る。
パナソニック(株)ではフレキシブルディスプレイに関する新たな技術開発を進めている。本プロジェクトでは、そうしたフレキシブルディスプレイに関わる将来の事業創出・拡大を目的の一つとして、フレキシブルディスプレイを活用した新たな製品やサービスの創出を産学のオープンイノベーションで試みる。(本プロジェクトは、翌年度から博士学生を対象として開講するオープンイノベーション実習の試行として実施した)