講師:岡田 猛 教授(東京大学大学院 教育学研究科)
創造プロセスにおいては、他者の仕事に触れることによってモチベーションが高まったり、感情が動いたり、新しいアイデアやイメージが生まれたりすることがある。これは触発(inspiration)と呼ばれる現象であるが、本発表では、芸術創作プロセスにおける触発を対象に、アーティストを対象にしたフィールドワークや、大学生を対象にした心理実験や実践研究の成果を踏まえて、触発の役割と促進の方法について論じる。
日時:2016年2月12日(金)14:00~15:30
場所:京都大学 デザインファブリケーション拠点(研究実験棟151室)
デザインファブリケーション拠点のアクセス
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
問合わせ先:nakakoji[at]design.kyoto-u.ac.jp([at]を@に変えてください)
中小路 久美代(京都大学 デザイン学ユニット)
講演者略歴:
1994年カーネギーメロン大学博士課程修了(Ph.D. in Psychology)。ピッツバーグ大学学習開発研究センター博士研究員、名古屋大学大学院教育発達科学研究科助教授(高等研究院流動教員兼任)、東京大学大学院教育学研究科准教授(情報学環流動教員併任)を経て、現在、東京大学大学院教育学研究科教授。
講演報告:
参加者:10名(内デザイン学履修者3名)
認知科学分野における創造性研究において日本を牽引する研究者である岡田氏によるご講演であった。本講演では「触発(inspiration)」に着目し、他者の仕事に触れることによってモチベーションが高まったり、感情が動いたり、新しいアイデアやイメージが生まれたりするといった、創造するプロセスにおける現象について、フィールドワークや心理実験、実践研究の成果を紹介しながら、その役割と促進の方法について解説して頂いた。
デザインにおける創造のプロセスはデザイン学における最も重要なテーマのひとつと考えられる。本講演では、芸術家を対象とした触発のプロセスに関わる研究プロジェクトの成果をご紹介いただいたが、そのどれもがデザイナーを対象とした触発のプロセスとしても捉えられ得るものと考えられ、デザイン学を履修する学生にとっても、またデザイン学のカリキュラムを設計しそれを実践する教員にとっても、非常に示唆に富む内容であった。
ご講演ではまず、科学に対するメタ科学(科学についての研究)と同様に、芸術に対するメタアート(芸術についての研究)としての研究の位置づけを述べられた。このことは、デザイン学におけるメタデザイン(デザインについての研究)を考える上でも非常に興味深い視点である。また、岡田氏が提唱されている「創造的教養人」の考え方もまた、社会の諸課題に対峙しようとするデザイン学教育においても中心的な役割を果たす概念と捉えられる。「ずらし」や「模倣」が創造性において果たす役割を、実践研究や心理実験結果の詳細な説明と共に解説していただき、デザイン学のみならず、自専攻における研究に携わる上でも、自らの創造的な思考プロセスに適用可能な事例として興味深いものであった。