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情報学領域概論科目「情報通信技術のデザイン」実施報告(平成29年度)

1. 概要
情報学領域概論科目「情報通信技術のデザイン」を開講した。本講義は、複雑化する情報通信技術のデザイン原理を包括的に理解し、整理することを目的としている。講義は、これまでと同様に、6回の招待講義、ワークショップ、高校生への発表会により進められた。招待講義では、ハードウェアからソフトウェアまで各情報通信技術の第一線で活躍する研究者・技術者による講演を通して、最新の動向だけでなく、用いられているデザイン原理について読み取った。その後、ワークショップを通して、参加者の協働作業により学習した技術とデザイン原理を体系化し、その内容をポスターにより視覚化した。最後に高校生への発表会を通して、自分の言葉で高校生に分かりやすく説明することで知識や設計原理の定着を図った。

2. 招待講演
本年度の招待講演は、鳥居淳先生、松澤昭先生、浅井孝浩先生、竹野浩先生、中村昌志先生、山本貴史先生、洛西一周先生にお願いした。これら7名の先生方による6件の講演について以下にまとめる。

【スーパーコンピュータのデザイン (鳥居淳先生)】
スーパーコンピュータのデザインを主題として、スーパーコンピュータの各実現方式から省エネルギーのための手法などについて解説いただいた。従来の専用Symmetric構成はプログラミングしやすく高性能というメリットがある一方、開発期間や開発コスト、運用コストといった点でデメリットが大きかった。近年は、性能だけでなく、このようなコストも考慮した評価がされており、PEZY Computingでは小型化・高密度化・低消費電力化によりスパコンの民主化(高性能な大型計算機センターから誰もが気軽に使えるオフィスでの設置)を目指しているという点が印象的であった。この目標のために開発したのがメニーコアプロセッサPEZY-SCと液浸冷却技術ESLiCである。前者は多数のプロセッシングエレメントを階層的に並べ面積効率を高めたアーキテクチャであり、後者はファンなどを必要としない液浸冷却技術である。これらにより、オフィス設置では欠かせない高性能と低消費電力、低騒音と室温動作を実現している。

【集積回路のデザイン (松澤昭先生)】
超高速無線通信を実現する集積回路のデザインについて解説いただいた。前半では無線通信の基礎として、高周波信号にデジタル信号を載せるための変調と、変調された高周波からデジタル信号を取り出す復調について説明された。この基礎を基に、伝送速度を向上させるミリ波のキャリアトランシーバ集積回路について紹介された。このトランシーバにより高周波信号の帯域を上げることが可能になるが、同時に送信電力も増大するトレードオフの関係にある。そのため、ミリ波超高速無線では利用モデルに応じて周波数と送信電力を定め、適切な集積回路をデザインし、その組合せでネットワークシステムをデザインしていく必要がある。

【移動体通信のデザイン (浅井孝浩先生)】
移動体通信のデザインを主題として、各世代の移動体通信システムにおける特徴的な技術設計について解説いただいた。移動体通信では、有限の電波資源をいかに効率的に活用し、多くのユーザに通信を提供するかがデザインの中心的課題となっており,この多重アクセス・多重化方式によって移動体通信システムは世代が分かれている。多重アクセスでは他者の電波との混信を防ぐ必要があり、周波数、時間、符号を分割し、異なるユーザに割り当てることでユーザを識別している。第1世代は周波数を分割するFDMA方式、第2世代は時間を分割TDMA方式、第3世代は符号を分割するCDMA方式が用いられた。第4世代では一つの送信機で複数のアンテナを用いて複数のチャネルをまとめて送るMIMO方式により空間伝送効率を向上させている。第5世代では、今後のIoT社会実現のために、より高速・大容量のデータ転送が求められており、高周波帯域を用いた広帯域化による実現が目指されている。

【サーチエンジンのデザイン (竹野浩先生・中村昌志先生)】
サーチエンジンのデザインと運用について竹野先生および中村先生のお二人から解説いただいた。サーチエンジンのデザインにおいて最も重要なものが検索速度である。大量の文書からユーザのクエリに該当するものを高速に見つけるには、単語ごとに出現する文書を列挙した転置インデックスが用いられる。しかしながら、検索精度を向上させるには、単語の連接処理が必要となり、転置インデックスのサイズを増大させることとなり、精度とメモリ消費にトレードオフが生じる。このトレードオフを改善するために差分情報などに着目した転置インデックスの圧縮手法が考案されている。ただし、実運用に堪えうるシステムを構築するには、転置インデックスの圧縮だけでは十分ではなく、転置インデックスを分割し複数台へ分散させる必要がある。このような分割分散とその処理結果の統合も情報通信技術の大きなデザイン原理といえる。

【家庭用ロボットのデザイン (山本貴史先生)】
家庭用ロボットのデザインについて、トヨタの過去の事例を用いながら解説いただいた。人の代わりとなって家庭で仕事ができるという家庭用ロボットの未来像に向けて、用いられているデザイン原理は人と社会の模倣である。トヨタでは特に人を支援している介助犬を模倣し、HSR(Human Support Robot)のコンセプトモデルの開発を進めている。その中で家庭用ロボットに求められる要件として、小型・軽量、操作性、安全・安心の3つが選ばれている。これらの要件を満たす構造として腕4軸+台車アクティブキャスタ方式全方位台車を採用しており、最大速度やトルクといった物理制約の範囲内でなめらかな制御を実現するアルゴリズムなどが開発されている。こうしたロボットの構造や制御のデザインに加えて、ロボット研究のプラットフォームとして開発環境を公開することで、ロボットの研究開発と実証実験を促進させるエコシステムを設計し、開発コミュニティの形成に繋げている。

【電子図書館のデザイン (洛西一周先生)】
電子図書館のデザインについて、洛西先生がこれまで開発された情報共有・伝搬に関するソフトウェアを事例に用いて解説いただいた。ここで用いられているデザイン原理は再利用性である。公共データやサービスは、独占的に権利を保持するのではなく、ユーザーが再利用しやすいAPIの形で提供することで、ユーザによるremixが進みエコシステムが形成される。また、Creative Commonsの登場により、エコシステムを伝搬する情報の著作権の管理が容易になり、情報の伝搬が一層促進されている。さらに、今後はこの伝搬経路をトラッキングし報酬を逆伝搬させることができれば、コンテンツの生成を持続可能とするビジネスモデルも構築できる可能性がある。ただし、情報の伝搬には特殊性があり、最初に誰に共有するかを決めてから内容を作るという傾向にあり、様々なグループウェアの開発には明確な使用目的と意図が重要である。

3. ワークショップ
招待講演で学んだことを体系化・視覚化するために、7月1日~2日の2日間のワークショップをデザインイノベーション拠点(京都リサーチパーク)で開催した。ワークショップでは、各人がスーパーコンピュータ、集積回路、移動体通信、サーチエンジン、家庭用ロボット、電子図書館から2つの情報通信技術を選択して、その技術の開発の歴史と関連するデザイン原理をまとめ、スライド2枚で発表したのち、「スーパーコンピュータ(最小設計・トレードオフ)」「移動体通信(階層的抽象化・トレードオフ)」「サーチエンジン(エコシステム・ビジネスモデル)」「家庭用ロボット(人と社会の模倣)」の各技術をテーマとする四つのチームに履修者を分けた。各チームで担当する情報通信技術のデザイン原理について議論し、ポスターを作成した。

ワークショップの様子ワークショップの様子1 ワークショップの様子ワークショップの様子2

このワークショップの目標は、情報通信技術のデザイン原理を十分に咀嚼し、高校生が理解しやすいように体系として視覚化することである。7月5日には、ワークショップで用いたポスターを用いて発表のリハーサルを行い、ポスター発表に改善を加えた。翌週の7月12日には、京都市内の西京高校、堀川高校から34名の学生を招待し、デザインファブリケーション拠点(吉田)で発表会を行った。今年も西京高校の藤岡健史先生に大変お世話になった。今年は高校生を交えたミニワークショップに加えて歓談時間も設けられ、高校生からは進路や専門性の決め方などについて相談があり、大学院生からのアドバイスは高校生にとって有意義なものとなったようである。

高校生に対するプレゼンテーション高校生に対するプレゼンテーション 高校生とのミニワークショップ高校生とのミニワークショップ


本年度も、発表会に参加した高校生から、以下のような感想が寄せられた。

■総合的に見て、情報通信技術は時間が進むと共に急激な成長を遂げており、例えば、5Gのことについてだが、それが誕生するのは2020年。だが、その具体的な利用法は定まっていないという風に、たった3年後のイメージさえも付きづらいことからそのことが伺えた。情報通信技術は21世紀前半でかなりhotな変化を生み出すような気がした。また、「ロボットとは何か」というブースで、ロボットは決して角張った、ゴツゴツした、固体という定義じゃなく、空間さえも操る溶ける存在という考え方を聞き、今後のロボットの形にとても興味が湧いた。
 今回の発表会で、将来の情報通信の在り方が我々に無くてはならないものだと実感させられた。

■とても有意義な体験だった。京大生の方の発表の内容は、僕たちに理解できる内容まで詳しく説明されていて、とても分かりやすかった。意見交流も面白く、京大生の人が気さくに話しかけてくれたので、スムーズに意見を出すことができた。
 また、京大生の人から、進路や職業などのことについてアドバイスを頂くことができた。このような話し合いを通じて、進学に対するモチベ—ションや、将来のイメージを固めることができたように思う。この経験や憧れをしっかりと勉学へつなげ、進学へと生かしていきたい。来年も是非とも参加したいと思った。

■京大生のPPの発表方法、雰囲気を間近に見て感じることができ、良かったです。質疑応答で質問がでない時の微妙な空間でも、なるべくそれをなくそうと、話題を振ってくださっていて、そこまで想定していたのかは分かりませんが、いい工夫だと思いました。私達もそのテクニックを使えるようになりたいです。
 ブレインストーミングも堀川の人達とからみながら、テーブルでまとまって取り組むことができました。大学生さんと話すのも楽しかったです。
 いつもと違った環境で学び、活動し、話ができ、とても有意義な時間を過ごせました。とても楽しかったです。また来年も参加したいです。

■特に無線技術の進歩については発表側が今一つ理解しきっていない感じで、内容が伝わってこなかった。ロボットデザインについては、「ロボットの概念とは何なのか」や機能の専門化など新しい発見があって楽しかった。
 ワークショップではアイデアを出した後は院生に任せてしまった感じで、もっと食いついていけばよかったと思った。頭の回転速度はさすが京大生だった。
 歓談では進路選択において一番役に立つのは研究室のHP、社会に出てからのことまで考えておくべきだといった生の助言を受けられてとても有意義な時間だった。
 違う学部の人達が集まって話し合う、とても面白そうな取り組みだと思った。

■固い雰囲気を予想していたけれど、京大の皆さんが話しかけやすい雰囲気でディスカッションを行って下さったので、楽しみながらディスカッションをすることができました。特に印象に残ったことは、ロボットの定義が時を経るにつれて、曖昧になっているということです。
 ロボット開発が進むにつれて、従来の典型的なロボットの型を超えた新たなロボットが誕生し、それによって、ロボットの定義が曖昧になっているということでした。
 他にも、スーパーコンピュータは冷やすことによって、性能がよくなるといったことや、Google社は生命科学、保険産業にも手を出しているといったこと、様々なことを知ることができました。ありがとうございました。

■多学年の人、堀川高校の生徒、京大生などいろいろな方とお話ができてとてもいい機会になりました。普段自分たちが気にせず使っている検索エンジン、通信技術なども今の状態になるまでに様々な工夫があったことが分かりました。ほしいロボットについて交流していると生活を補助してくれる(面倒なことなどをやってくれる)ロボットが一番需要がありそうだということが分かりました。
 2020年になって今の情報通信技術からどこまで進化しているかとても楽しみです。

■今回「Googleのビジネスモデル」「スーパーコンピュータ」「移動体通信」「ロボット」の4つにわたって発表して頂いた中で、最も楽しませてもらったと感じるのが、「ロボット」の部分で、「ロボットは概念が人間の空想から技術よりも先に生まれ、その人間の空想を現実にするために技術が追いついてきた」という院生からのお言葉で、今の私たちのすぐ近くに存在するロボットというのは、人ができないようなことを代わってしてくれるようなものというよりは、ドラえもんのように、人ができるようなことだけれどもロボットにしてもらう、そのようなことが多いことに気づいたとともに、私たちが今思っている空想も提案して構想して開発して実用化する、なんてことが当たり前の世界に変わっているのだという風にも思えてとても感慨深く感じました。
 私は社会科学系に進もうと思っていて、おそらくは他の参加されていた生徒の方は将来情報学や工学などの今回の内容に関連性のある分野を進まれる方もいるのだろうな、と思いながらの参加でした。
 しかし、いくら専攻しようと思っている分野とは関連しないから、というわけではなく、私自身はこれからの社会を生きていく中で、情報やロボットなどの最先端技術に深く関わる職(一般職としてでしょうが)に就く可能性は大いにありますし、一人の未来を生きていくだろう人間として、関わらずに生活することは100%不可能だろうなという思いから、自分の視野を広げるためにもたくさんのことを学ばせてもらう機会を与えてもらえたことにはとてもありがたいと思っていますし、とても有意義な時間を過ごせてよかったです。
今回発表して頂いた京大の大学院生の方々もすごく丁寧に接してくださったり、ワークショップの時には、「自分たちもこんなことしたことないわ」とおっしゃりながらも私たちが考えを出しやすいように積極的にまとめてくださったり、と非常によくしていただいて何よりだったと思います。
 もし、一つだけ述べるとするならば、やはり最先端の技術は複雑で細部までしっかりとした説明が必要なのと、私たち自身も、もう少し詳しいお話を聞かせてもらえればより理解を深められるのかな、と感じる部分はあったので、時間の延長が(もちろん可能な範囲がまだあるのであればですが)できるようだととてもありがたいです。
最後ですが、本当に今回参加させてもらってよかったと思います。来年度にも(スケジュールが許せば)是非参加したいと思います。

■専門用語も多く、多少理解しにくいところもあったが、情報の基礎知識のようなことが聞けて、とても面白かった。
 グーグルの親会社傘下の会社の売上のほぼ全体をGoogleの一社であげている点について、検索エンジンの広告収入とGoogleのビジネスデザインに感動した。考えた人がすごい。
「4G」「3G」のGの意味が「Generation」と意外と「第4世代」的な言い方だったのには拍子抜けした。もっと難しい専門用語かと思っていた。周波数の空きや2進数のパターン、時間の違いなどで混信しないようにする技術が発展してきた経緯は、目に見えないところで起きている。疑問に思っていたのが、なんとなくわかった。
 ワークショップでは、学校や学年の垣根を越えて活発な議論ができ、色々な考えを聞くことができ、非常に参考になった。あとのフリートーク的な時間には、どこの大学が何の分野に強いか、大学の厳しいところなど、進路についても知ることができたので、今後の志望などに生かしたい。

■大勢の大学院生と交流するのは初めてで、いつもよりは積極的に話すことはできなかったけれど、高校生にわかるような説明があったため、興味を持って聞くことができた。ワークショップでは、自分の意見をポストイットに書く方式で、これは普段から学校でも行っていることだった。もう少し話し合い、活動が上手にできるようになりたいと思った。

■ロボット、通信技術、検索エンジン、スーパーコンピュータの4つの発表を聞いて、僕は特に通信技術の発表が興味深かったです。様々な観点から、通信量を増やしていくためにはどうしたら良いかを試行錯誤した結果、現在の4G回線につながっているのだと思うと、将来はどのような革新的なアイデアで更なる発展が起こるのかがとても楽しみになりました。
 他にもしらないことを色々知ることができたので将来設計において視野が広がったなと思いました。
 ただ、周りの人が知らない人ばかりで、ディスカッションの時も大学生と高校生の間に壁があるような感じがしました。でも発表会が終わってから大学生と進路や大学生活の話をして、その時には大学生の方と仲良くなれたので、発表会の前にそういう時間があれば、ディスカッションで気兼ねなく、大学生と高校生が意見交流できるかもしれません。

■今年で3回目ですが、毎回違うことを学べるので、毎年成長させていただきました。今年のプレゼンは昨年より身近なテーマが多く、比較的わかりやすく感じました。交流時の雰囲気もかなりよく、大学生と身近に接することができる貴重な機会でした。ありがとうございました。

■今回参加した動機は、大学院生がどのような活動を行っているのか、また情報という学問はどんなことを学ぶのかを知るために参加しようと思いました。
 実際に大学院生と交流してみて、何を学んでいるのかというのはもちろんのこと、大学の様子などを聞くことができたので、良い経験になりました。
 この経験のおかげで、自分が行きたい学部について知ることもでき、その意志が強くなったので、価値のある時間だったと感じました。大学で学びたいという気持ちが強くなり、これからの入試への活力となったと思います。


    (講義担当:佐藤高史、石田亨、村上陽平)