第14回目を迎えるに至った当ビジネスデザインシリーズですが、今回は、更に、産業の幅を広げて、化粧品ビジネスを取り上げ、日本を代表するメーカー、(株)資生堂から島谷常務(研究開発本部長)に登壇頂くこととなりました。「グローバルビューティカンパニー」向けた該社の取組みについて、経営改革、研究開発、ブランド力、人材などの観点から下記内容を軸に、大いに語って頂きます。
これを糧に、様々な立場の方が語り合うことにより、ビジネスデザインアクションのドライバーになることを期待しております。奮ってご参加ください。
日時:2017年12月21日(木)17:30~(19:00頃から懇話会・有料)
場所:京都大学 デザインイノベーション拠点(KRP9号館5階)
KRPのアクセス
講演者:島谷 庸一氏(株式会社資生堂・執行役員常務(研究開発本部長))
講演概要:
(株)資生堂は1872年の創業以来、国内化粧品市場におけるリーディングカンパニーであり続けたが、技術の同質化や販売チャネルの多様化に伴う市場競争の激化により、これまでの「品質の高い化粧品×マスプロモーション×組織化された化粧品専門店×美容部員によるカウンセリング販売」というビジネスモデルが崩れつつあり、国内市場におけるシェアは低下し続けている。
また、中国やアジア、南米などの新興国の経済発展に伴い、2012年時点で約30兆円規模であった世界の化粧品市場は、2020年には約50兆円規模となることが見込まれており急速な成長を見せている。
このような状況のもと、2015年には真のグローバルビューティカンパニーへと変貌を遂げるための中期計画「VISION2020」を定め、大胆な経営改革を断行している。なかでも研究開発分野の改革はその中心的役割を担っており、現在進めている国内研究所の移転、海外研究所の新設やイノベーション創出体制の再構築、研究領域の拡大などについてご紹介し、みなさまとともにイノベーションを生むための組織・体制、リーダー像、ワークスタイルや人材などについて考えていきたい。
対象:京都大学教員・学生、デザインイノベーションコンソーシアム会員、一部招待者
定員:40名程度
参加費:無料(懇話会 1,000円)
申込: 12月13日(水)締切。下記よりお申込みください。
https://pro.form-mailer.jp/fms/6579db2c130883
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
デザインイノベーションコンソーシアム
問い合わせ:デザインイノベーションコンソーシアム 事務局
京都リサーチパーク(株)山口
info[at]designinnovation.jp([at]を@に変えてください)
075-315-8522
報告:
冒頭、当該フォーラム、並びに今回のテーマ設定に関し、貫井先生の主旨説明がなされた。そして、島谷執行役員常務の講演へと移り、更に参加者を交えての活発な討議、意見交換が行われた。(参加者;70名)
[講演内容主意]
(1) 化粧品市場について(市場規模・成長性、主なプレーヤーなど)
まず化粧品の市場構造ですが、スキンケア、サンケア、メーキャップなど売上の主流を占める領域と、フェイシャルウォッシュやシャンプーリンスなどのどちらかというと低価格帯のパーソナルケアに近い領域に大きく分かれます。これらを全部含めて化粧品と言っています。
資生堂の場合は国内売上が48%で、それ以外が海外になっています。売上の半分以上が海外というとグローバルカンパニーと思われるかもしれませんが、海外の市場はM&Aなどで得たブランドがあって、それらがグループ企業になっています。
市場規模としては、化粧品の中心地でもあるヨーロッパが大きく、その次に中国を含むアジア圏。北米も市場が大きく、南米はシャンプーリンスなどのパーソナルケアの市場が大きくなっています。そういうなかで日本は比較的売上が大きく、日本人は化粧品をたくさん使っていると言えます。伸長率でみると、中国は伸びていますが北米やヨーロッパ、日本はほぼ飽和状態です。そのため、海外へ出て行かざるを得ない状況です。
売上でみるとフランスのロレアルが1位で、2位がユニリーバ。ここはどちらかというとプレステージではなくてシャンプー/リンスの方が強い会社です。3位のプロテクター&ギャンブル(P&G)も石鹸から始まった会社なので、プレステージビジネスはそんなに強くありません。4位のエスティーローダーはプレステージしかやっていません。5位が資生堂で、ほとんどプレステージなのが特徴です。それぞれのグループ企業にはいろんなブランドが紐づいていて、資生堂グループではドルチェ&ガッバーナというイタリアのフレグランス化粧品会社をはじめ海外でしか売っていないようなブランドを買収してきました。同じように1位のロレアルはイヴ・サンローランやランコムなどを持っています。
販売チャネルでみると、みなさんが一般的に化粧品に接する機会の多くはドラッグストアやデパートだと思いますが、かつては化粧品専門店が圧倒的に大きくて40%くらいありました。それが縮小して、代わりにドラッグストアやスーパーなどの量販型のお店が増えてきました。このことは当社とって非常に大きな変化ポイントです。以前はコンシューマー/ユーザーの方に近い領域で売っていて、「これから紫外線が増えるのでサンケア商品を使いましょう」というように、カウンセリングをして販売をしていましたが、今はドラッグストアなどでお客さま自身が商品を選ぶ形になり、売り方が大きく変わりました。資生堂はかつてチェインストア(化粧品専門店)のチャネルに非常に多く投資をしてきました。これが、資生堂がここまでやってこられた一番の収益源であったが故に、近年では、逆に売上は厳しい局面を迎えていることになります。
またエリアごとに特徴があり、日本ではスキンケアの商品の売上が約半分の46%。日本人はお肌にすごく気を使っていて、そして、当社の化粧品に対しても支持されていると言えるかと思います。大きくみると、中国をはじめアジアはスキンケアが強く、市場構成比が高いのに対し、ヨーロッパはフレグランス、アメリカはメーキャップがかなり大きな市場構成比を占めています。南米は先ほども言いましたようにホームケア、パーソナルケアが増えています。これが市場の概要です。
(2) 資生堂の概要(創業、制度品ビジネスモデル、プロモーション、国内市場での苦戦)
次に、資生堂の概要を簡単に紹介いたします。資生堂の創業は1872年、もとは調剤薬局としてスタートしました。社名の由来は中国の古典「易経」にある「至哉坤元 万物資生」からきています。そして今から約100年前に試験室(現在の研究所)を設立しています。化粧品自体をやりだしたのは随分前で、創生期から白粉やクリームなどを販売し、海外向けの商品も手がけていました。そして資生堂が大きく成長した時のビジネス上のポイントが、先ほども言いましたチェインストアという化粧品専門店の存在です。カウンセリングをする美容部員が、どんなお化粧をすればきれいになるかという説明をしてお客さまに届けるというビジネスモデルでしたが、今はお客さま自身がセレクトされます。従って、マスプロモーション、テレビ宣伝に大きく投資をしてお客さまに伝えて、ドラッグストアなどで商品を購入していただく形にシフトしてきました。その後、更に市場が更に変わって来まして、通信販売やEコマース分野がどんどん伸びています。テレビで宣伝を増やしてもあまり売上は伸びません。そのためテレビからデジタルメディア系、SNSなどにシフトしているところも多いと思います。
ところで2000年あたりから、当社の扱うブランド数や商品の数が増えて投資効率が悪くなって来ました。そこで、メガブランド戦略を打ち出し、ブランドを絞って集中投資をすることによりブランドバリューを高めようとしたのです。名だたる女優を一度に5人使うなど、マスプロモーションにかなり投資をし、確かに一時期売上はあがりました。しかし長続きせず、逆にどんどん利益を圧迫することになりました。しかし、この戦略でよかった点は、ブランドを絞ったことでクレ・ド・ポーボーテ、エリクシール、マキアージュなど大きなブランドに集約されたことです。これらのメインブランドだけで資生堂の売上の7割から8割をカバーしています。そういう中で直近の業績は売上が2012年から7000から8000億円くらいの間をずっと行き来しています。
国内市場は、2006年時点の出荷ベース、つまりドラッグストアや専門店に卸す分の数字で約1兆5000億円でしたが、2014年まで変動はありますがほぼ変わりません。一方で、この間に化粧品会社は約2700社から約3600社に増えています。つまり参入障壁が非常に低いため通販などで売ろうと思えば簡単にビジネスを始めることができるのです。競争が激化した結果、当社のシェアは低下傾向が続き、1979年の26%から2014年は11%台にまで落ちました。新規参入が相次ぐ理由としては、いわゆる原価率が25%前後と低いのが大きな要因です。しかし、一方では販管費率が非常に高く、60%から70%になります。そのため新規参入してもなかなかビジネスとしてうまくいかないところもあると思われます。
一方、OEMでいろんな化粧品を作る会社がたくさんあり、この業界は非常に伸びています。国内外ともに技術力が高く、かなりクオリティも高くなっています。そういったところから、商品を揃えるのは比較的簡単で、なおかつEコマースの発達によって新規参入の会社でもチャネルの獲得が容易になりました。化粧品は昔でいう薬事法、いまは薬機法(医薬品医療機器等法)の支配下にあり、薬機法が決めている表現以上のことは出来ません。つまり、いくら技術を投入し機能価値を高めたとしても、それを表現できる上限が設定されているため、機能訴求が非常に厳しく、それ故に機能価値での差別化がたいへん困難になっています。また、基本技術の特許切れの問題や、動物実験廃止にともない新規有効成分の開発に停滞を招くという問題などから、技術の同質化傾向にあります。
以上のような状況から、ブランドを絞っていかないとブランドバリューを高めることができないと判断し、メガブランド化したわけですが、その一方で、R&D研究開発の投資抑制、ブランド数削減の結果としての店頭売上の減少、在庫の増加、出荷の減少という負のスパイラルに15年以上も陥ることになりました。
(3) 資生堂の経営改革(100年先も輝き続けるために)
そこで現社長が2014年に社長に就任した際に、これまでの方針を変えることになりました。「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーへ」というビジョンのもと、はじめの3年間、つまり2015年から2017年までは今までの事業基盤の再構築を行い、2018年から2020年で成長させようということで改革をスタートしたのです。数値目標としては2020年に売上高1兆円超、営業利益1000億円超、ROE12%以上、です。このとき、負のサイクルを断ち切るために、マーケティングとR&Dへの投資を強化することでブランドを強くして、それによって売上を伸ばし、流通在庫も適正化される、という正のサイクルに直そうと決めました。それまでは、R&Dはダイレクトに売上に繋がらないからコストであり、営業部門がバリューであるとされてきました。でも、実際に価値を作っているのはマーケティングとR&Dであり、バリューを作っているところに投資しないといつまでたっても悪循環から抜け出せません。そのためR&Dはコストセンターではなく、マーケティングとR&Dはバリューセンターであると規定したのです。今までは売上が厳しいとR&D投資を削減するということを繰り返しておりましたので、この変化はわたしにとっても大きな意識転換でした。そして、経営戦略として、R&Dに投資をすると決めた結果、徐々にその方向に進んでいます。
また、海外の売上が増えて来たので、海外の決裁権を高めてグローバルマトリクス体制に移行するようにしました。今までは、日本から海外をコントロールしていましたが、各地域本社のトップの決裁権を高めて独自判断ができるようにしました。日本と海外がクロスでコントロールする形になっています。
もうひとつの大きな経営戦略がプレステージファーストです。シャンプーリンスなどの領域に対する投資よりもプレステージブランド、つまりスキンケア、メーキャップ、フレグランスなどへの集中投資です。
更に、日本発ブランドの成長加速を目指しました。中国・アジアで販売するためには日本で人気がないと売れませんから、日本でブランドを育成して、中国・アジアに展開していく。これができるのが、ボーダレスマーケティングです。化粧品業界だけではありませんが、中国のお客さまは海外旅行先でいろんなものを購入されますので、トラベルリテールが非常に伸びています。例えば、日本で売れたものが中国国内のEコマースで売れたりします。これがグローバル展開をしている当社としての強みになる部分です。資生堂の海外売上高比率は、競合会社よりも高く、52%となっています。それ故に、資生堂は、クロスボーダーでアジア市場を見て事業展開できるという強みを持っていると思います。今後はEコマースに注力し、2020年にはEコマースの売上比率を20%超にしたいと考えています。また、さまざまなCRMシステムやM&Aによってデジタルコミュニケーションを強化する戦略をとっています。
以上のように負のサイクルに陥っていたものをこの3年間で何とかしようとし、在庫の償却を始め、ギリシャやトルコ、インドなど赤字事業からの撤退も実行しました。また組織統合・効率化をすすめ、いわゆる構造改革によって、負の遺産を解決しました。2015年からこのような負の遺産をなくす諸施策を進めて来た結果、今期はCAGRで約8%の成長率を維持しており、2020年には1兆円を超えるという目標に近いところにまで来ました。
(4) 資生堂の研究開発
これらの事業を支えていく柱となるのが研究開発です。資生堂では、さまざまな商品に応用される基礎研究の期間はだいたい1年から3年で、長いものでは10年以上かかるものもあります。そのなかで特定のブランド向けの商品開発に関しては1年半以内で行われています。研究開発の起点になっているのがお客さまです。美しく若々しい肌を実現する「機能性」、使い心地の良さや感触、心の満足度などといった「感性」、そして人体と環境への配慮といった「安全性」というお客さまの視点が何よりも重視されます。そこには薬剤・原料開発をはじめ製剤技術開発、容器・外装開発などさまざまな要素技術が関連し、幅広い研究が行われています。これらは100年にわたって培ってきた研究開発力の賜物であり資生堂の強みとなっています。
その成果のひとつに、新規しわ改善有効成分「レチノール」の薬事開発があります。また、IFSCC(国際化粧品技術者会連盟)の大会受賞実績において他社を凌ぐ圧倒的な評価を受けるなどの実績をあげています。2017年には「有害物質から肌を守るテクノロジー」が最優秀賞を受賞しました。
さて、改革によってR&Dの投資を拡大しているということを先ほども申し上げましたが、マーケットのトレンドを研究開発にどうブレイクダウンしてテーマ設定するかが非常に重要です。加えて、そのように設定したテーマを速やかに実用化に結び付けるための要素を揃えておくことが大切で、それが化粧品会社の研究開発戦略の中心だと思っています。資生堂の研究員はいま1000人くらいですが、2020年には1500人、研究開発費は売上比で2.5%くらいに伸ばす予定です。また、2018年末には横浜のみなとみらいにグローバルイノベーションセンターを設けるなど、大型の投資も考えています。この3年間で研究を強化して、その幅を広げていくことでいろんな領域のテクノロジーを投入していきます。
実は、1989年にマサチューセッツ総合病院とハーバードメディカルスクールとCBRC(MGH/Harvard Cutaneous Biology Research Center)という基礎研究拠点を作りました。当初10年間契約でしたが、30年に近い実績を残しています。われわれが研究にファンドするとともに資生堂の研究員を送って一緒に基礎的な研究をし、ここから出てきた研究成果は資生堂で使えるという構造になっています。当初は、アカデミア故に、企業の言うことにはなかなか耳を貸さないという姿勢がかなり強く、当社と全然関係のない研究を進める場合もありましたが、今では、そういうことはなくなり当社がリクエストした研究の中からチョイスして研究をするようになっています。このように、基礎的な研究開発拠点はハーバードにありますが、それ以外にはヨーロッパ、アメリカ(ニュージャージー)、シンガポール、中国(北京、上海)にも研究開発拠点があります。基礎研究は日本で行い、たとえばアメリカの人が使うメーキャップの色は日本とは異なるので、そういったローカルカスタマイゼーションを各地の研究所でやるというように、全製品の半分くらいの開発を海外でやっています。もちろん、海外からのリクエストがあれば日本の研究所ですることもあります。また、各地の研究所とは月に一度は全体的なコミュニケーションを図っています。時差の関係で夜中の会議になることもありますが、これを続けていくというのはとても重要だと考えています。
続いて、新たな美容イノベーションの開発として、デジタルビューティーデバイスというものがあります。背景にはホリスティックやパーソナライズドというのがあり、塗るだけでなくて他の方法でも美しくなりたい、あるいは化粧品を使う以外の新しいビューティー体験をしてみたいというニーズが非常に増えています。そういうことから、スタートアップベンチャーなどから技術を導入しています。スキンケアカスタマイズマシンがその一例で、その日の環境や紫外線の量などの情報をスマホから自動入力するとその人に一番あった化粧品を選ぶサービスです。来年の春に発売する予定ですでに商品発表しています。同じようにストレス状態や行動によって香りをカスタマイズするアロマディフューザーや、「すっぴん顔」に画面上ではお化粧しているように見えるバーチャルメイクの技術もあります。更に皮膚色をセンシングする技術をもっているアメリカのスタートアップベンチャーを買収し、スマホで皮膚色をセンシングし、その人に一番あうファンデーションを届けるというビジネスも展開しています。アメリカの場合はとくに肌色のバリエーションが多いので、そういう機能が役立ちます。それ以外のところでは毛髪の再生医療の研究をカナダのバイオベンチャーとの技術提携によりスタートさせております。育毛は医療と化粧品の接点なので、医療と化粧品の接点を探るということでこういった研究も進めています。
以上のように研究開発への投資を進め、新しい研究にトライするということで、来年末にはみなとみらいの商業地域に研究所をオープンすることになりました。一般的に研究所というと郊外をイメージされると思いますが、われわれのところはコンシューマーとの接点やトレンド、ファッションに敏感でないといけないので、あえて商業地域のなかに研究施設を移します。SNSなどが話題になっている中で、できるだけコンシューマーとつながることを目的にしていて、1、2階はオープンな空間となる予定です。横浜に来られることがあれば是非お越し頂ければ、と思います。
以上
フライヤー