第10回目を迎えるに至った当ビジネスデザインシリーズですが、今回は、多くの関心事である「グローバルビジネス競争を勝ち抜く企業力とは何か」という視点から、下記内容を軸に、企業トップとして全社をけん引してこられた講師自らの経験を踏まえ、大いに語って頂きます。
これをもとに様々な立場の方が語り合うことにより、これからのビジネスデザインアクションのドライバーになることを期待しております。
日時:2016年11月7日(月)17:30~(19:00頃から懇話会・有料)
場所:京都大学 デザインイノベーション拠点
KRPのアクセス
講演者:山西 健一郎氏(三菱電機株式会社 取締役会長)
講演概要:
グローバル化が進展する中、国際間の競争において日本が苦戦を強いられている。このグローバリゼーションの流れは、これからも従来以上のスピードで進展すると考えられる。このような状況の中、グローバル産業競争に於いて、日本の技術優位性が揺らいでいる。我々の電機業界においても、欧米・中国・韓国・台湾等との競争において、この技術優位性の低下が苦戦を強いられている大きな要因になっている。
これを打破し、乗り越えていくための指針として、三菱電機の成長戦略に触れながら、本来日本企業が持っている競争優位性について説明する。また、技術面での必要な用件だけでなく、経営者としての必要な資質・用件についても一緒に考えたい。
対象:京都大学教員・学生、デザインイノベーションコンソーシアム会員、一部招待者
定員:40名程度
参加費:無料(懇話会 1,000円)
申込: 10月31日(月)締切。下記よりお申込みください。
https://pro.form-mailer.jp/fms/1781f640107316
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
デザインイノベーションコンソーシアム
問い合わせ:デザインイノベーションコンソーシアム 事務局
京都リサーチパーク(株)山口
info[at]designinnovation.jp([at]を@に変えてください)
075-315-8522
講演報告:
冒頭、守倉先生の挨拶、続いて当該フォーラム、並びに今回のテーマ設定に関する貫井先生の主旨説明がなされた。そして、山西取締役会長の講演へと移り、更に参加者を交えての活発な討議、意見交換が行われた。(参加者;53名)
[講演内容主意]
私が社長になってからは、「生産技術の改善(ものづくりの改善)」「強い事業をより強く」「グローバルな事業展開」、そして「好感度アップ」に力を入れてきました。しかし経営というのはなかなか計画通りにはいきません。リーマンショックや震災、Brexitなど国内外のいろんな出来事が影響します。
そのような中、本日は、(1)三菱電機の経営戦略・概況、(2)三菱電機の技術力(ものづくり力)、(3)技術者・経営者としての経験談、(4)これからの経営者への期待、という4つのテーマについてお話ししたいと思います。
(1)三菱電機の経営戦略・概況
まずは2015年度の5つのセグメント別売上高比率ですが、①火力発電や原子力、あるいは電鉄、エレベータなどの重電システムが25%。②FA(ファクトリーオートメーション)などの産業メカトロニクスが26%、③半導体などの電子デバイスが4%、④エアコンを中心とした家庭電器が20%、⑤衛星などの情報通信システムが11%となっています。重電と産業メカトロニクスを合わせると売上が約50%、利益は約70%を占めています。ここに家庭電器の20%を加えると約9割になり、残りが電子デバイスと情報通信システムという構造になっています。
次に経営方針ですが、三菱電機では2001年頃から「バランス経営」を掲げており、まず「収益性、効率性」「健全性」のベースをしっかりしたうえで、「成長性」を成り立たせるというのが基本的な考え方です。決して砂上の楼閣にはせず、強固な基盤を作ろうというものです。2020年度には創業100周年を迎えますが、それまでに「連結売上高5兆円以上」「営業利益率8%以上」、さらに「ROE10%以上」「借入金比率15%以下」を成長目標に設定しています。そのために冒頭の5つのセグメントを事業間シナジーによって、「強い事業をより強く」ということだけでなく、「新たな強い事業の継続的創出」「強い事業を核としたソリューション事業の強化」を行い、今後、よりいっそう強固にしていく予定です。
以上が2020年度までの成長戦略の全体像です。一方、収益拡大に応じた株主還元拡大を進めた結果、配当性向は25%まで増加し、これは企業価値の向上にもつながっています。また、今後の成長を牽引する事業群として、電力システム、交通システム、ビルシステム、FAシステム、自動車機器、宇宙システム、パワーデバイス、空調冷熱システムの8事業を設定しています。
さて、三菱電機では「三菱電機グループは、技術、サービス、創造力の向上を図り、活力とゆとりある社会の実現に貢献する」を「企業理念」とするとともに、①信頼、②品質、③技術、④貢献、⑤遵法、⑥環境、⑦発展を「7つの行動指針」として定めています。しかしながら、このなかには「安全」が入っていません。また、「遵法」とは「法令遵守」ですが、法を守っていればそれでいいのか、というとそうではありません。法律上問題がなくても道徳的倫理的に問題がある場合もあるからです。そのため2020年までにはこれらの見直しを進める予定です。
「コーポレート・ガバナンス」に関しては、三菱電機では2003年に経営の監督機能と業務執行機能を完全に分離し、経営の機動性・透明性の一層の向上を継続的に確保して参りました。執行役社長をCEO、会長をチェアマン・議長とし、業務執行は執行役員にすべて委譲して、取締役はそれを監督するシステムです。
また、「役員報酬」は基本報酬が少なく業績連動分の割合が大きな比率を占めますが、後者はほとんどが金銭報酬でした。しかしこれでは短期的なインセンティブになりがちということで、今年から業績連動の報酬のうちの半分を株式で渡しています。3年後に現金に換えるため、その間に株価が倍になっていれば報酬も倍、半分になっていたら報酬も半減となります。これによって、短期的な視点のみならず中長期視点の取り組みもバランスよく進めていけることを期待しています。
(2)三菱電機の技術力(ものづくり力)
日本の経済成長・産業育成における課題についてはみなさんよくご存知だと思いますので省略しますが、これに対する3つの課題解決方向をお話ししたいと思います。
1.高度な技術力の更なる進化
三菱電機では①キーパーツ内製、②摺合せ(アナログ技術によるインテグレーション)、③生産性向上、④ノウハウのクローズ化、という4つに特に力を入れています。
企業に於ける価値づくりは重要な課題ですが、これを実現するための条件には、「ものづくりの容易性、困難性」「顧客から見たときの価値の大小」の組み合わせから考えることができますが、一番利益が大きな領域は「ものづくりは簡単で、顧客価値が大きい」というものです。ところがこれは、最初はよくてもだんだんコモディティ化していきます。携帯電話やパソコン、テレビが辿ってきた道を見ても明らかです。それに対して、一時の利益はあまり高くありませんが「ものづくりが困難で、顧客価値が大きい」部分が、日本のものづくりの重要なポイントになると言えます。たとえば車、エレベータ、精密機械、複合機、エアコンなどが該当します。そういったところをいかに設計開発し、生産技術を蓄積していくのかが大事です。そういう困難なものづくりを実現するためには、キーコンポーネントを内製すること、更にそれらをどう周辺と擦り合わせ、インテグレーションするかということが非常に重要なポイントです。
生産性向上に関しては、「ジャストインタイム改善活動」という名称で全社での改善活動を行っています。具体的には問題点の見える化をして、徹底したムダ取りを行っています。見える化による真の原因追求をベースにした自発的継続的改善を続けています。2001年ごろからスタートし、現在までに売上原価率が8%下がりました。
最後の「ノウハウのクローズ化」も非常に大事な部分です。日本が半導体やデジタル家電で苦戦する背景には、たとえば半導体の場合、加工がサブミクロンのレベルだということに関係します。加工はすべて装置で行うため設備技術が生産技術そのものであり、当初は競争力の源泉であったのですが、設備外注を進めるなかでノウハウが海外へ流出しました。そういう経験からとくにパワー半導体では設備のブラックボックス化を進めています。汎用的なところは外注してもキーとなる装置は内製して外には出さない。そういうことをしない限り、これからも同じことが繰り返されることに間違いありません。
そのベースになるのは特許、知財です。ただ、戦略性のない出願がかえって競争力を阻害する可能性もあります。そのため案件に応じて出願せずに秘匿にすることも大事です。三菱電機では「秘匿発明制度」を導入しています。特許を出願せずに社内に秘匿しておくわけですが、その場合証拠がなくてはいけませんので公証役場に出しておくというものです。公証役場における証拠書類を残しておけば、後から他社に出願されても証明ができます。ただし権利を取ろうとしたら先使用権の確保をしておくということも大事だと考えています。
2.コンセプト提案製品の創出(ソリューション)
日本が今後の生きる2つめの道として、コンセプト提案製品の創出(ソリューション)も重要でしょう。オープンイノベーション(社内外連携)も積極的に行っており、そのひとつにスマートコミュニティソリューションがあります。いま実証が終わって実装が始まりつつあります。スマートタウン、スマートマンションなどが徐々に進んでいます。
また衛星ソリューションも今後さまざまなところで使われると予想されています。三菱電機では現在1機運用中の準天頂衛星を、2020年度までに4機運用予定です。準天頂というのは常に真上にありますから、GPSが使えないようなビルの深いところにも使える技術です。代表的な活用例に自動運転があり、衛星からの情報をもとに運行します。
そしてFAソリューション。これはインダストリー4.0のひとつとも位置付けられるもので、三菱電機では以前から「e-F@ctory」という名称で、FA分野でグローバルナンバーワンの地位を確立してきました。最新のFA技術とICT技術で工場をまるごと最適化する、FA統合プラットフォームです。
3.構造的なコスト高の是正
日本のコスト高の解決については、国としての施策に関わる課題も多々あります。例えば、法人税減税、海外企業の誘致政策、移民、多子化、それと電力代低減、資源開発を抜本的に見直さないといけません。一企業では対策困難なこのような構造的なコスト高をどこまで是正できるかというのが今後の課題です。
(3)技術者・経営者としての経験談
ここからは技術者・経営者としての私の経験談をお伝えしたいと思います。
2003年から2007年は生産技術センター長、生産システム本部長時代でありますが、この頃から「変化は進歩、現場主義、厳しく明るく」という方針で進めて参りました。当時は、先ほども述べた「ジャストインタイム改善活動の深化(進化)」のほか「事業本部・コア事業強化の推進」をするために、集中と選択を進めました。注意してほしいのが、選択と集中ではないという点。まず何に集中するか決めて、それから選択するということです。集中するものがないときは無理に選択しないことです。「強い事業をより強く」に対して、「弱い事業はそれなりに」ということでもあります。
2008年から2009年にかけては、半導体・デバイス事業本部長時代です。「真のものづくり力強化」として、(開発から製品製造、調達、物流全部を含んだものがものづくりであるので)設計と製造の連携を強化しました。ここで、「一夜漬け論」について少し、お話します。生産もものづくりも、明日でいいことは今日はしない、物事を前倒しで一切しないという事です。人の集中力は時間が迫れば迫るほど高まりますから、一番効率がいいわけです。そして前倒しの時間は別のことをする。これによってさらに効率向上につながりますし、仕掛も増えない。ただ、これをやってもいいのは実力がある人だけです。実力をつけずに一夜漬けをすると、納期遅延を起こして大問題になってしまいますから、「一夜漬け」できる実力を普段から身につけろということです。そのほかには、パワーデバイスはトヨタ自動車と、光デバイスはHuawei Technologiesと、液晶デバイスはダイムラーといった一流企業と組んで事業を進めました。
2010年から2013年は社長時代ですが、東日本大震災やタイの洪水、そして2012年にはコンプライアンス事案が起こるなど、大きな出来事がありました。震災では調達の問題が起こります。こういう時に、会社の姿、人間性というものが出てきます。周囲が困っているときに自分のところだけなんとかしたい、決してそう思わないことです。品位を汚すことにつながります。コンプライアンス事案については、過去から地下で眠っていたもので、いろんな人が知っていても知らない、見えない、聞こえない振りでやり過ごしていたことの表出です。そうならないためには、組織の風通しをいかによくするかということが大切です。風通しが悪い組織体制のもとでは、いつまでたっても不祥事がなくなりません。
私の好きな言葉に孔子の「君子固(もと)より窮す。小人窮すれば斯(ここ)に濫(みだ)る」があります。「君子はもちろん窮することがある。ただ小人と違うところは常に君子たるものは自分を追い込んでいるから、困ったときも慌てず、取り乱さない。」、つまり「窮状に直面しても、オロオロしたり怒鳴ったり言い訳したり嘘をついたりしない」という意味です。そういう思いで社長時代を過ごしました。
また、成長戦略の推進にあたっては、「重点8事業をより強く」、「新興国市場への展開」、「成長戦略を支える基盤づくり」に務めました。とりわけ、成長戦略を支える基盤づくりに於いては、①倫理・遵法、②安全、③品質、④棚残削減、⑤原価低減、⑥リードタイム短縮の6つの項目を挙げていますが、とくに①②③を犠牲にしてまで利益を出すことを考えてはいけないというのが三菱電機の基本的な考えです。
(4)これからの経営者への期待
日本の将来を担う経営者に必要な視点を大きく4つにまとめました。
1)人としてさらに成長しなければなりませんが、そのためには、次の点を見直していただきたいと思っています。
①コミュニケーションとは自分が話すことではなく、相手の話を聞くこと。
②君子豹変すや朝令暮改に対する柔軟性を身に付ける。
③目標未達の原因は、すべて計画にあり。問題点の見える化をし、改善後結果として目標値を見直すこと。計画を立てる側、経営側が全体を俯瞰する力をどれだけ有するか、これに大きく関わります。
2)グローバル化することによって、反グローバル化を理解できるかと思います。それが世界と日本でなく、世界のなかの日本を理解することになります。さらに、ローカルテイストを理解すること、つまり気候、法令、習慣といったものをも理解したうえでの製品開発が必要です。また、グローバルとは言いますが、三菱電機はまだ売上の50%以上が国内ですから国内の事業をも大事にしなければなりません。
3)多様性の大切さ。スペシャリストと同じようにゼネラリストも大事です。複数の専門性、全体を俯瞰する力、協働性、このバランスを組織としていかにつくるかということです。また、部下は10人いれば10人とも個性が異なります。人材育成をするにあたっては、それぞれにあったプログラムをつくる必要があります。同種の血(知)を集めると裸の王様になって非常に危険です。個人、組織のどちらも異種の血(知)を集めて逆風に強い組織をつくることが大切です。
4)三菱電機ではポスト五輪に向けた種まきをそろそろ始めています。IoT、AI、ビッグデータなどが中心になるなかで、セキュリティやプライバシー、ブラックボックスをどれだけ守れるかが今後さらに重要になるでしょう。
最後に、経営者に不可欠な要素について4点を申し上げます。
①闘争心・情熱。グローバル競争に勝つという意識。
②人間的魅力・倫理観。正直さ、潔さ、決断力、評価の公平性、コミュニケーション力。
③専門性・見識。全体を俯瞰するという意味で重要です。
④不条理を理解する力。残念ながら世の中から不条理がなくなることはありません。だからこそ不条理を理解してうまくこれと付き合っていけるか。
三菱電機のコーポレートステートメント「Changes for the Better」のchangesとは改善する項目がいくつもあるという意味で複数形になっています。ではなぜfor the bestではなくbetterなのか。それは改善に終わりはないからです。ここに三菱電機の思いを込めています。
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