講師:寺﨑 新一郎 助教(九州大学大学院 経済学研究院)
グローバリゼーションと消費者行動に関する先行研究は、消費者エスノセントリズムや敵対心、原産国効果といった、外国製品に対する否定的な態度に焦点を当ててきた。しかしながら、急速に進むグローバリゼーションのもと、異文化についての情報に接する機会が増えることで、外国製品に対する肯定的な態度が表面化してきている。
本講演では、これらの二つの態度を整理する新たな枠組みとして、消費者イデオロギー効果研究を提示し、その研究潮流を四つの視点から整理する。最後に、今後の検討課題を発表する。
日時:2016年3月15日(火)10:30~12:00
場所:京都大学 総合研究2号館3階 ケーススタディ演習室
総合研究2号館のアクセス(34番の建物)
申込:不要
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
企画:山内 裕(経営管理大学院 准教授)
問合わせ先:yamauchi[at]gsm.kyoto-u.ac.jp(山内)
([at]を@マークに変えてください)
講演報告:
消費者が文化差に対してどのように反応するのかという観点からの研究を発表いただいた。従来から議論されてきた消費者エスノセントリズムの研究を基礎とし、そこから原産国効果、敵対心などの概念を含めた消費者イデオロギーという新しい研究枠組みについて講演いただいた。もともとは原産国(country of origin)イメージ効果の研究があった。そこでは「made in …」というような認知的な側面、あるいは規範的な側面、そして感情的な側面が議論されてきた。日米貿易摩擦のときのジャパンバッシングのような反応が典型的である。しかしながら、このような従来の原産国イメージの枠組みの限界が指摘された。例えば、Alexander Josiassenによる、消費者魅力-反感マトリックスが挙げられる。単に自国の商品に対して消費者が同一化するか他国の商品に対して敵対心を持つというだけではなく、自国の製品に対する反感(消費者脱同一化)や他国の製品に対する魅力(消費者アフィニティ)というようなパターンもありえることが議論された。
その他、非特定の反応としては、消費者セノフィリアが挙げられる。異文化に対する消費者アフィニティは単にその文化への好意を示すが、消費者セノフィリアは外国人への好意を示すと同時に、自文化への不敬を含む概念である。同時に国際主義(internationalism)は、経験的分析でも、自国の商品に対する否定的な反応を含まないという。あるいは、世界思考(worldmindedness)においては、人類を準拠集団とし、ナショナリズムと並存できる可能性がある。これらの概念は、消費者コスモポリタニズムに取って代わられつつある。他国の商品に対する好意は、この概念で説明されることが多くなっている。米国の学生がメキシコに旅行し楽しい思い出を持って帰ると、自分の大学に戻ってもメキシコのコロナビールを求め、そのときの楽しい感覚を再現しようとするような事例が説明される。この研究はまだ発展途上であり、今後様々なモデルの精緻化や検証がなされていくことが期待されている。デザイン学にとっても、社会のシステムやアーキテクチャのデザインにおいては、文化を意識した実践が求められている。そのときに議論するために役立つ様々な概念をご紹介いただくと同時に、文化を捉えることの難しさを改めて理解させていただくよい機会となった。