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デザインフォーラム ビジネスデザインシリーズ vol.8

水と生きる『Suntory』、
       お客様に感動していただける商品造りを目指して
~世界最高峰のビールを追い求め続けるものづくり現場からの発信~



日時:2016年3月28日(月)17:30~(19:00頃から懇話会・有料)
場所:京都大学 デザインイノベーション拠点
   KRPのアクセス

講演者:横山 恵一氏
    (サントリービジネスエキスパート株式会社 執行役員 SCM本部 原料部長)

サントリーグループは「人と自然と響き合う」という企業理念のもと、よき企業市民として最高の品質を目指した商品やサービスをお届けし、世界の生活文化の発展に貢献するとともに総合酒類食品企業としてグローバルに更なる成長を目指しています。とりわけ、ビール事業への挑戦は1963年に武蔵野ビール工場でのビール造りからスタートしました。そしてビール醸造家の熱い想いから生まれた「ザ・プレミアム・モルツ」は、より一層の「深いコクと華やかな香り」を実現し、多くのお客様からの支持を得るに至っております。そのような中で、サントリーのビール工場(もの造り現場)では、お客様のご期待に応えるべく、安心・安全・美味を追求し一人一人が気持ちを込めてものづくりに取り組んで来られました。
今回の講演では、そのようなサントリーグループの企業哲学、ビジネス概要とともに、講師が武蔵野ビール工場長として6年半務められた中で、「理想のものづくり」の実現を目指し、どのようなことを考えながら工場経営(「ものづくり現場」づくりを含む)に取り組んできたか、サントリーのものづくりへのこだわりの実例を自ら語っていただきます。また、飲食品製造業における生産現場での事例を通して、現場では実際にどんなことが起こっているのか、何が課題になっているか、それらに対してどのように取り組んできたのか、更には、求められる人材像や素養などについても、現場の生の声を伝えていただきます。
これからの国・社会を考える上で避けて通れない「飲・食」といった生活の基本を成す分野に関わる企業の成り立ち、ビジネスの成り立ちの一端をご教示いただき、これを基に様々な立場の方々が語り合うことにより、参加者みんなのモチベーション向上、これからのデザインアクションのドライバーになることを期待しております。

対象:京都大学教員・学生、デザインイノベーションコンソーシアム会員、一部招待者

定員:40名程度

参加費:無料(懇話会 1,000円)

申込: 下記より申込ください。3月17日(木)締切
   https://pro.form-mailer.jp/fms/dcb92ca792597

主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
    デザインイノベーションコンソーシアム

問い合わせ:デザインイノベーションコンソーシアム 事務局
      京都リサーチパーク(株)山口
      info[at]designinnovation.jp([at]を@に変えてください)
      075-315-8522


講演報告:

冒頭、貫井先生の当該フォーラム、並びに今回のテーマ設定に関する主旨説明の後、横山執行役員の講演、更に参加者を交えての活発な討議、意見交換が行われた。(参加者;46名)

[講演内容主意] 
◆サントリーの企業哲学と環境経営 
サントリーは1899年に鳥井信治郎が鳥井商店を創業したことに始まります。長期貯蔵を必要とするウイスキーの性質上、製造してから販売まで歳月が必要であるため、最初は葡萄酒の製造販売からスタートしました。現在ではウイスキーやビール、ワイン、そして缶コーヒーやお茶などの食品飲料の製造販売を行っています。また、海外メーカーとの提携によってバーボンやアイリッシュウイスキーなども扱っています。さらに、フラワービジネスやハーゲンダッツ、サプリメントなどの健康商品、外食産業まで含めると、グループ全体で計337社、従業員数は計42,081名、昨年の売上高は2兆6,868億円、経常利益は計1,563億円の規模の企業です。このうち、国内の売上が約6割、事業別では、食品(飲料)が約5割となっています。
さて、サントリーグループでは企業理念としてCorporate Messageに「水と生きる」を掲げ、Our Missionとして「人と自然と響きあう」と謳っています。これは、世界中の人々に最高品質の商品とサービスをお届けすることで人々の生活をさらに豊かにすると同時に、環境との共生をめざすことを意味しています。さらに、Our Visionを「Growing for Good」とし、グローバルに成長するグッドカンパニーでありたいという願いを込めています。加えて、Our Valuesには「チャレンジ精神“やってみなはれ”」「社会との共生“利益三分主義”」「自然との共生」を据えています。
サントリーでは創業以来、自然が育んだ良質な地下水、天然水の価値を生かした商品をお客様にお届けしたいという思いで商品を育ててきました。「水と生きる」とは、次の3つの意味を表しています。1つめは言葉通りに「水とともに生きる」、2つめは「社会にとっての水となりたい」、3つめが「水のように自在でしなやかに」という意味です。
それらを企業理念のなかに生かし、サントリーではグループ全体の環境基本方針を「環境経営を事業活動の基軸にし、バリューチェーン全体を視野に入れて、生命の輝きに満ちた持続可能な社会を次の世代に引き渡すことを約束します」と標榜するとともに、重点課題として具体的に次の5つを挙げています。「1.水のサスティナビリティの追求、2.生物多様性保全への取り組み、3.イノベイティブな3Rによる資源の有効活用、4.全員参加による低炭素化企業への挑戦、5.社会とのコミュニケーション」。そのなかで代表的な取り組みに「天然水の森」づくりがあります。日本は地下水に恵まれた国ですが、森に元気がなくなれば地下水も豊かでなくなる恐れがあります。サントリーでは工場で汲み上げている地下水よりも多くの水を生み出す「天然水の森」を守っていくことを自分たちの約束事として、100年先を見据えたプロジェクトを進めています。現在「天然水の森」は8,000haにまで拡大し、さらに協議会活動として連携する場所が全国2箇所1,050haあります。まさにOur Valuesの「自然との共生」がこれらの活動にあたります。 
次に、Our Valuesの「社会との共生」についてですが、この考え方は、創業者の鳥井信治郎が「利益三分主義」を唱えたことに始まります。事業で得た利益を事業に再投資し、お客様やお得意先に還元するのみならず、社会にもきちんと貢献しなければならないというものです。これが「利益三分主義」の心得で、その精神を受け継いで活動をしています。サントリーホールなどの文化芸術学術活動、特別養護老人ホームや学校法人運営といった地域社会との共生、またスポーツ支援や震災復興支援も行っています。
さて、Our Valuesの3つめが「チャレンジ精神“やってみなはれ”」です。社是には「人間の生命の輝きをめざし 若者の勇気に満ちて 価値のフロンティアに挑戦しよう 日日あらたな心 グローバルな探索 積極果敢な行動」とあり、私どもの道標であると理解しています。私も若いころには「やってみなはれ」と先輩によく言われました。サントリーの良いところは「面倒をみるから何でもやってこい」という、激励とともに背中を押してもらえるところです。私も現在では若手の人たちに「やってみなはれ」という言葉とともに後押しをしています。

◆ものづくり現場力向上に向けた取り組み〜サントリー武蔵野ビール工場での活動〜
現在、国内ビール市場は、1年間で約4億ケースの出荷があります。近年出荷量が前年を下回る傾向にありますが、そのなかでサントリーが市場を創造し毎年成長が続いているカテゴリーが「プレミアムビール市場」で、この中心となっているのが「ザ・プレミアム・モルツ」です。
サントリーは、国内大手4社のなかで一番あとにビール市場に参入しました。1963年に東京都府中市に武蔵野ビール工場を建設したことに始まります。通常、日本のビール工場は主原料のほとんどを輸入に頼っているため、物流の利便性などを考え大都市圏の港湾近くにつくられてきましたが、府中市は内陸部にあります。というのも、サントリーは天然水へのこだわりがあるため、良質な天然水を得られるところを探した末に府中市にたどりついたのです。以来、サントリーは日本ではじめて生ビールづくりに挑戦し、世界最高峰のピルスナービールをつくりたいという思いで「ザ・プレミアム・モルツ」を開発しました。当初は武蔵野地域限定で販売しましたが、2003年に全国販売に切り替えました。そして、私たちが美味しいと思っているビールは本当に最高なのか。その評価を世の中に問うてみようと、「モンドセレクション」に出品したところ、2005年から2007年にかけて、3年連続で最高金賞をいただくことができました。日本のビール業界では初めてのことで、日本のビールがこれだけ本場の欧州から高く評価されたことは大きな話題となりました。「ザ・プレミアム・モルツ」の特徴は華やかな香り、とくにアロマホップにあります。ファインアロマホップと良質の麦芽をふんだんに使い、絹のような柔らかい泡をつくっています。ここでは、この「ザ・プレミアム・モルツ」をつくっている現場でどういったことを課題と考えてどんな取り組みをしているかをお話します。
武蔵野ビール工場は、ビールづくりに携わっている従業員数154名、このほかに研究所、協力会社、物流搬送関係者をあわせると350名規模の工場です。製造工程には多くの設備機械がありますが、私は、最終的にものづくりをするのは人だと考えています。設備がいかに進化して最新の技術ができたとしても1つ1つの工程、1つ1つの現場で、「この品質なら大丈夫」だと全員が自信をもった製品を次の工程へ渡せるようにつくっていこうという思いです。そのために香りや味わい、色、泡の状況が本当にいつもと変わりないか、最高かということを、五感で確かめながら次の工程へ送っていきます。センサーや機械といった技術的な進歩はありますが、それらの数値は基本的には参考データであり、最終的には美味しく造りこめているかということをメンバー1人ひとりが官能で考えています。これが私たちのこだわりです。
しかし私が赴任した当時は非常に大きな問題を抱えていました。最重要課題としてあったのが、「最高品質の追求」「生産性の変革」「世代交代ひとづくり」の3つです。
「最高品質の追求」に関しては、「モンドセレクション」の最高金賞を連続受賞し大きな栄誉を感じました。と同時に、本当に自分たちが自信を持って、1本1本最高品質の「ザ・プレミアム・モルツ」をお届けしていかなくてはならないという大きな責任を感じました。そこで、お客様の信用やご期待に添うため、最高品質、すなわち「最高の美味美装」をさらに追求しお客様にご満足をいただくという最大の課題に取り組むことにしました。
「生産性」の課題については、ビール工場は食品製造業のなかでは規模の大きな工場であり、スケールメリットが非常に大きく関連します。当時他社では工場を統廃合して、最新式の設備を備えた大型工場が次々と稼働していました。その中で、武蔵野ビール工場は中規模な工場ですのでスケールメリットを享受することができません。そうすると、たとえ「最高品質」という高い評価をいただいたとしても、「生産性」という経済原則のなかでは生き残れるかどうかはわからず、むしろ、工場の存続が危ういと言うところまで追い込まれたのです。これまで培ってきたサントリービールの伝統や、私たちが積み上げてきた現場はどうなるのか。そのような思いで、「中規模の工場でありながら最新の大型工場に負けない生産性を上げるにはどうすればいいのか」を考え抜かねばならず、生き残りをかけた生産性変革が差し迫っていました。
また、そのころ、工場ができた当時に入社した人たちが一斉に定年退職を迎えるという問題もありました。即ち、現場のものづくり技術、伝統、こだわり、こういったものを伝えるには、「世代交代に伴う人づくり」も喫緊の課題となっていました。そこで、こういった武蔵野ビール工場の3つの課題を解決し、30年先まで業界トップレベルであり続けることができる工場をめざそうと考えたのです。
そこから生み出したのが、私たちが「ワンバッチスルー生産方式」と名付けた理想のものづくり「全数美味美装の実現」の追求です。工場を見渡してみると機械の動作不良や機械のメンテナンスなどによる生産面、品質面のロスがありました。それらをきちんと調整したり、やりなおしたりしながら、最終的に最高品質のものをお客様にお届けしていましたが、そのようなものづくりからロスゼロのものづくりに変革しようという発想です。ビールというのはバッチ生産で、武蔵野ビール工場では1回100kl仕込みますが、その後の多くのプロセスを経てできたビール1本1本が最高品質であることが「全数美味美装」なのです。つまり、それを造っているときの品質ロスや生産ロスのゼロ化をめざすこと: 「ワンバッチスルー生産方式」こそが、私たちの生き残りの道だと考えたのです。 
まず、一般に用いられている設備総合効率の考え方を参考にしながら、「全数美味美装」に向けた私たち独自のロス構造を定義しました。それは大きく3つのロスに分解しています。1つ目は「安全安心品質リスクのロス」、2つ目は「当たり前品質リスクのロス」、3つ目は「最高品質に向けたロス」です。「最高品質に向けたロス」には上限はありませんので、もっともっと上を追求していこう、Xバーをどんどん自分たちで高めていこうという考え方です。以上の3つのロスを徹底的に洗い出し、それらを1つずつ優先順位の高いものから潰していき、最終的に全てのロスをゼロ化することを目指して工場一丸となって取り組みました。

もうひとつの課題は「人づくり・風土づくり」です。強い現場は人・風土からできていると考え、現場指導会や体感学び場などを通じて改善力をあげるための活動を行いました。そして、武蔵野ビール工場の歴史伝統、匠の心を継承するために、ベテラン社員に語り部として活動してもらう場をつくりました。むかし使った器具や装置を用いながら、どういう意味があってこれを使ったのか、それがどう進歩したのかといったことを実際に実演しながら説明してもらうのです。マニュアルだけではなかなか伝わらないのですが、五感を働かせて実際に体感してもらうことにより伝授するやり方です。これはベテラン社員のモチベーションを大いに高めることになり、どんどん積極的に提案をしてくれるようになりました。また、工場内の一体感を醸成するための取り組みとして、社員に限らず全ての協力会社の方々まで含めたイベントや歓送迎会なども開催し、チーム力を高めていきました。

◆リーダー(工場長)として大切に思っていること
最後に私が抱いてきた考え方をお伝えしたいと思います。まず私自身がビール好きであり、お客様に美味しく味わっていただきたいという思いでビールづくりに取り組んできましたが、1人ではなくみんなの思いと力を結集してこそそれが叶うものだということです。
もうひとつは仕事に取り組む姿勢です。経営視点と現場視点の両面が重要と思います。トップから言われたからやるのではなく、経営視点で何を求められているのか、何を行わなければならないのかをしっかりと認識し、かつ、現場目線で地に足をつけてものづくりにこだわり、執念をもって積極的に挑戦する姿勢が大切です。即ち、工場で言えば、その歴史の古い新しいは関係なく、たえず進化成長している現場であること、そしてそのために、ひとつひとつの現場がきちんと機能していることが重要なのです。武蔵野ビール工場は、そのような工場であるためにはどうすればいいのかという方針を立て、軸をブラさずに工場一体となって実行すること、できることが、最高品質のビール造りを支えていると思っています。

デザインイノベーションコンソーシアムのページリンクは下記となります。
http://designinnovation.jp/program/design-forum/df-report/vol8.html

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