講師:秋谷 直矩 助教(山口大学 国際総合科学部)
エスノメソドロジーは社会学の一潮流だが、その特徴としてデザインとの関係が深いということがある。たとえばCSCW(Computer-Supported Cooperative Work:コンピュータに支援された共同作業)という学際融合分野では、コンピュータ科学との共同研究により、情報システムデザインに関して知見が蓄積されてきた。他にも、海外の事例だが、デザインスクール内にエスノメソドロジー研究者のグループが参加するなど、様々なデザイン実践において、エスノメソドロジーの有用性が見出されてきている。では、具体的にどのような点に有用性があるのだろうか。
エスノメソドロジーとデザインの関係の歴史的展開の簡単な紹介及び私自身のいくつかの実践例の紹介を通して、この問いについて、ひとつの見通しを与えていきたい。
日時:2016年1月14日(木)13:00~14:30
場所:京都大学 デザインファブリケーション拠点(工学部研究実験棟151室)
デザインファブリケーション拠点のアクセス(58番の建物)
申込:不要
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
企画:山内 裕(経営管理大学院 准教授)
問合わせ先:yamauchi[at]gsm.kyoto-u.ac.jp(山内)
([at]を@マークに変えてください)
報告:
報告書(PDF)
参加者:14名(内訳:デザインスクール学生2名、その他本学学生9名、教員2名、その他1名)
今回は山口大学国際総合科学部の秋谷直矩助教に、学際融合分野における共同研究への社会科学者の参加の仕方についてご講演いただいた。お話は秋谷先生がエスノメソドロジー研究で社会学の修士号を取得されてから入学した、異分野融合を旨とする大学院での博士後期課程の院生生活の話から始まった。周囲に自分の道を示してくれる先輩や仲間の院生も少なく、自分がやっていることが研究史の中でどう位置づけられるかも不明確な状況の下で、研究生活上の要請に迫られてエスノメソドロジー研究と他分野の協働の仕方を模索してきた、秋谷先生の出発点と経歴が語られた。この導入に続いて、コンピュータ科学およびHCI(人間—機械インタラクション)、CSCW(コンピュータに支援された協調作業)分野とエスノメソドロジー研究との協働の歴史が説明された。この歴史をふまえたうえで、他分野との協働におけるエスノメソドロジー研究の役割のタイプとして、以下の三つが提示された。①CSCW(に関するAI研究含)における「理解」「推論」「プラン」といった概念の再特定化作業の担い手として②情報学における応用研究の観点から、情報学の手法で解決すべき(あるいは可能な)問題の発見/開発されたものに対する評価の手法として③情報学者の手法(特に設計論)の再構築に向けたモデル提案者として。さらには、研究文化の大きく異なる分野間の具体的な研究マネジメントの問題として、どれだけ調査や論文執筆に時間をかけるか、知見の応用を志向するかどうか、研究者間のパワーバランスをどうするか等々の事柄を調整することの困難さが指摘された。そして最後に、秋谷先生自身の協働の例として、京都大学物質—細胞統合システム拠点科学コミュニケーショングループ在籍時の協働作業支援ソフトウェア開発をフィールドにした分析例が紹介された。
こうした情報提供とその整理、実例の紹介は、たいへん勉強になるものであるとともに、これからデザインに代表される異分野融合領域で仕事をしていこうとしている者も含まれている学生にとって、実践的な道標にもなりうるものであった。なにより、異分野融合に頭を悩ませ、それに体系的な取り組みを行ってきた人々が実際にいて、それらの取り組みを先行研究という形で参照できることがわかったことは、学生たちにとってとても有意義な情報だったのではないかと思う。