講師:海老田 大五朗 准教授(新潟青陵大学 福祉心理学部)
障害者は働けないのではない。 障害者が働けないように社会がデザインされているのである。 この事実を理解するのに必要なのは、慈悲の心ではない。 物事を多角的に検討できる、偏見にとらわれない思考である。 本報告は、報告者自身が開発したデザインの紹介ではない。 障害者の「働く」を可能にした、野生のデザインの記述である。
日時:2015年12月25日(金)14:45~16:15
場所:京都大学 デザインファブリケーション拠点(工学部研究実験棟151室)
デザインファブリケーション拠点のアクセス(58番の建物)
申込:不要
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
企画:山内 裕(経営管理大学院 准教授)
問合わせ先:yamauchi[at]gsm.kyoto-u.ac.jp(山内)
([at]を@マークに変えてください)
報告:
報告書(PDF)
参加者:30名(内訳:デザインスクール学生2名、教員2名、経営管理院生16 名、その他10名)
今回は新潟青陵大学福祉心理学部の海老田大五朗准教授にご講演いただいた。講演ではまず自己紹介がなされ、それに結びつけてなぜ障害者就労支援に研究上の関心を抱いたかが説明された。先生は知的障害をもつ人が作業所で働く様子をみて、十分に働いているのに賃金が低いことに驚き、知的障害者が適切な賃金を得る労働をデザインすることに興味を抱いたのだという。続いて知的障害者雇用の実情が説明された後、就労支援の既存研究からのアプローチの仕方が整理され、そのアプローチへの先生の違和感—「同意はするけど説得はされない」という言葉で表現されていた—が述べられた。この、手際の良い整理に続いて先生は「作業」と「組織」が具体的にどうデザインされるかを、NPO法人が運営する就労支援カフェの事例と、一般企業である縫製会社のミシン作業の事例から報告された。カフェの事例では、内装や店構えの写真を巧みに提示しながら、装飾品や家具の一部がリサイクル品であったり、手作りのものであったりすることや、飲食のレシピをボランティアの人から提供してもらったこと、あえて安価すぎない値段を設定し、地域の他の店舗との共存をはかっていることなどが説明され、またこれらの個別のデザインの背後にある運営者の理念が報告された。続く縫製会社の事例では、ミシン作業を行いたい知識障害者が既存のミシンでの作業に適合しておらず、会社が新たなミシンを導入することでその者の労働を可能にしたケースが報告された。最後に、二つの事例を整理しながら先生は、エスノメソドロジーの成員カテゴリー化の概念を(それとは明示しなかったが)用いて、「作業」と「組織」のデザインが障害者に付与されるカテゴリーを「障害」から「雇用」へと変化させ、また後者の作動を維持する役割を担っているとまとめて報告を締めた。
この報告は、「作業」と「組織」のデザインがいかに固有の作業場の社会的文脈の下で有機的に絡み合い、知的障害者の労働を可能にしているかを明確に示すものだったように思う。講演の中で興味深かったお話として、カフェで使われている物品などのデザインを列挙するだけでは、それらがどう実際の労働の文脈の下で使われ、デザインとして機能しているかを説明できないというものがあった。デザインのはたらきとその仕方を学ぶためには、海老田先生のようなフィールド観察の方法が有用であり、またそのデザインを他者に報告/説明する際にもできるだけ具体的な社会的文脈を再現することが重要であることがよく理解できた。質疑応答も活発に行われ、参加者にとって知的刺激に溢れた講演になった。