講演者:松嶋 登 准教授(神戸大学大学院 経営学研究科)
欧米を中心とした組織論において、最も注目されている理論の一つに制度派組織論がある。今なお、嚆矢となったDiMaggio and Powell(1983)が高頻度で引用され、近年では制度ロジックを冠した研究論文が、主たる学会誌の紙面を賑やかしている。ところが制度派組織論は、特に新制度派と呼ばれていた1990年台から、大きく誤解されてきた憂き目にあった。様々な論争が、こうした誤解の是正運動として繰り返されてきた。本講演では、桑田耕太郎・松嶋登・高橋勅徳(編)『制度的企業家』ナカニシヤ書店(2015年3月発刊)を題材に、もっとも集中的な論争が生じた同概念をめぐる論争を振り返りながら、制度派組織論の理論的原意が我々に与えてくれる知見と残された課題を展望する。
日時:2015年12月18日(金)13:00~14:30
場所:京都大学 総合研究2号館3階 大演習室2
総合研究2号館のアクセス(34番の建物)
申込:不要
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
問合わせ先:yamauchi[at]gsm.kyoto-u.ac.jp 山内 裕(経営管理大学院 准教授)
([at]を@マークに変えてください)
講演報告:
制度論という組織論の中核をなす領域の論争を概観するような議論を提供していただいた。少し小さな教室であったが満室になるほどの盛況であった。
制度は社会のシステムやアーキテクチャのデザインにとって中心的な概念となる。ここで言う制度とは、法律などの制度ではなく、社会で一般的に受け入れられ自明視された規範やアイデアという意味での広いものを指す。そもそも制度は、神話、ルール、鉄の檻のようなアナロジーで議論されてきたため誤解されている。特に、制度的企業家(institutional entrepreneurs)の概念には議論が多い。企業家は新しいアイデアを社会で自明な事実として打ち立てる。しかし、この企業家は制度の外部なのか、内部なのか? 循環的な関係でもあり、制度の中でしか行動できないという意味もある。また、制度的企業家は制度の中心にいるのか、周辺にいるのかという議論もある。周辺にいることによって新しいアイデアを得ることができるし、中心にいることで資源にアクセスしやすくなる。あるいは、中心にいながら、周辺的なアイデンティティを持つという説明も呈示されている。
また、制度論において制度の3つの支柱(規範的、規則的、文化認知的)の関係についても議論されている。そもそもこの関係はあいまいさを抱えている。最近では制度を認知ではなく実践の観点から捉えようという動きもある。つまり、パフォーマティヴィティの概念であり、ここでは企業家の位置付けがとりやすくはなる。
松嶋先生ご自身の研究として、官僚制という一つの制度に関する実践にかかわるものが紹介された。制度を名詞としてではなく、institution workという動詞として捉えようというものである。具体的にはSHARPの緊急プロジェクト(緊プロ)は官僚制からの例外とする一つの制度である。つまりルールを守らなくてもいいというルールのもとに機能する。同時にこの制度を人々が利用するという側面が指摘される。具体的にはプロジェクトの重要性を上げ、成功させたいものがあると、それを緊プロとして提案するというような実践である。このように制度を動的に実践の枠組みで捉えることができる。
短時間でかなり多くの内容をレビューすることができ、制度論というデザイン学にとって重要なテーマに関する理解を深める助けとなった。