講演者:山中 俊治氏
(インダストリアルデザイナー、東京大学生産技術研究所 教授)
かつて美は芸術と共にありました。しかしデュシャンが美の追求そのものに疑義を唱えて以来、現代のアートは「美しさ」から離脱しようもがいています。一方で、車や建築を始め、家具や電子機器、道具、あるいはソフトウェアなど、私たちの生活環境を構成する人工物全てに「美しさ」を与えることを、デザインが担うようになりました。今や「美」は人工物が備えるべき機能の一つとしてデザインとともにあります。
そして今私たちは、美を持って科学技術を先導する試みを始めています。本講演では私とその仲間が行って来た様々なプロトタイピングを紹介しつつ、美とテクノロジーの新たな関わり方について論じて行きたいと思います。
日時:2014年12月20日(土) 13:00~15:00
場所:京都大学 デザインイノベーション拠点・セミナースペース
京都リサーチパーク西地区 9号館5階 506号室
KRPのアクセス
担当者:門内 輝行(工学研究科 建築学専攻 教授)
monnai[at]archi.kyoto-u.ac.jp ([at]を@に変えてください)
対象:京都大学デザイン学大学院連携プログラム受講生
京都大学学生・教員、デザインイノベーションコンソーシアム会員
定員:40名
講演者略歴:
1957 愛媛県に生まれる
1976 愛光高校卒業
1982 東京大学工学部産業機械工学科卒業
1982 日産自動車エクステリアデザイナー(~1987)
1987 インダストリアルデザイナーとして独立
1991 東京大学工学部助教授(~1994)
1994 LEADING EDGE DESIGN代表(~2013)
2008 慶應義塾大学政策・メディア研究科教授(~2013)
2013 東京大学生産技術研究所教授
主な著書:
『フューチャースタイル』アスキー出版,1998
『人と技術のスケッチブック』シリーズ、太平社,1997
『機能の写像』リーディング・エッジ・デザイン,2006
『デザインの骨格』日経BP社,2011
『カーボン・アスリート 美しい義足に描く夢』白水社,2012
講演報告:
本フォーラムでは、著名なインダストリアルデザイナーで、ロボットのデザインをはじめ、数多くの優れたデザインを手がけておられる東京大学生産技術研究所教授の山中俊治氏に、美とテクノロジーの新たな関係についてご講演頂いた。
人工物のデザインの原点に機能と形態との関係があることはよく知られているが、20世紀のデザインでは、機能に基づいて形態を決定する機能主義的な方法が注目を集め、「美」の問題は必ずしも重視されてこなかった経緯がある。その中で山中氏は、機能と形態とを統合する「プロトタイピング」を通じて、美とテクノロジーの新たな関わり方を探求されており、デザイン学の確立を目指す京都大学デザインスクールにとって、美の問題の位置づけをめぐる興味深いお話しを伺うことができた。
最初の1時間半に及ぶ講演では、小児まひの後遺症で親指しか動かせなくなった作家のためのキーボードTagtype、13.5度傾いたカード読み取り部を持つSuica自動改札機、眺めるだけで何もぜず、動くものに反応するロボットCyclos、のたうち回るだけのロボットflagella、階段を昇降する8つの車輪を持つ未来の乗用車のプロトタイプHulluc、身体の動きと一体化した究極の機能美を実現したカーボンファイバー製の義足、3Dプリンターを駆使してチタンの可能性を探求した作品など、数多くのプロトタイプの美しい映像を通して、人工物が備えるべき機能の一つとしての美を創り出すデザインの世界を開示し、私たちの生活環境を構成する人工物全てに「美しさ」を与えることをデザインの役割とみなし、美をもって科学技術を先導する試みを展開するビジョンを提示して頂いた。
それを受けて30分以上に及ぶ活発な質疑応答が行われ、美を創り出す能力はいかにして育まれるか、新しいプロトタイプを創造するマネジメントは可能か、クリエーションには驚くべき事実や思いがけない他者との出会いが必要であるが、そのことと美との関係をどのように考えるかといった論点をめぐる考えをさらに深く拝聴することができた。特に、単体としての人工物を超えて、人工物を含むシステムをデザインする上では、「複雑系の科学」が示唆を与えてくれるのではないかとのコメントもあった。
以上の2時間を超える長時間の講演には、学内はもとより学外からも聴講者に参集して頂き、デザインイノベーション拠点のセミナー会場は満席の盛況となった。
フライヤー