講師:村松 哲郎 特任教授 (大阪大学 産業科学研究所)
人々は、何時でもどこでも情報端末を使いこなし、グローバルにコミュニケーションできる時代の中にいる。それを可能にした重要要素は、中小型(モバイル)液晶ディスプレーの進展である。さて、モバイル液晶はいかにして世界市場に広められたのか。
講演者らは、21世紀の幕開けにあたり、次代を大胆に予測し、ユビキタス社会は益々進化し、人々の生活を主導するという仮説をたて、「繋ぎたい、繋がる。液晶は心の窓」とするビジョンを描いた。そのビジョン実現にあたり、様々な観点から施策を練った。
・ライフラインからエンターテインメントまで、携帯電話/携帯端末の普及の波に乗せるにはどうする か、普及活動・拡販・ビジネス戦略。
・国、地域の文化や歴史の差、国民性を知り、必要な機能を抽出。果たしてそれは実現できるのか、 足りないものは何か、どう補充するか、その精査と新規技術戦略。
・次に、市場規模推移、然るべき価格トレンドの予測。それに基づく、必要な生産規模と製造コスト の試算。そして、これらを管理・運営・実践できる営業、開発、設計、調達、生産、配荷、品質サ ポート体制など、バリューチェーンの構築と実行。
これらの過程で直面した課題、そしてそれを如何に乗り越えながらビジネスに仕立て上げたか、順風と逆風の中で中核として活動してきた講演者の生の声をお届けします。講演者の実体験をもとに「これからのユビキタス社会」、ビジネス最前線で活躍する「真のグローバル人材」の要件などについて議論しましょう。
日時:2014年10月23日(木)17:30~(19:00頃から懇話会)
場所:京都大学デザインイノベーション拠点 京都リサーチパーク西地区 9号館5階 506号室
KRPのアクセス
対象:デザインイノベーションコンソーシアム会員、
京都大学教員・学生、一部招待者
定員:40名程度
参加費:無料(懇話会 1,000円)
申込: 下記より申込ください。10月15日(水)締切
https://pro.form-mailer.jp/fms/29ba7ce463213
主催: 京都大学デザイン学大学院連携プログラム
デザインイノベーションコンソーシアム
問い合わせ:デザインイノベーションコンソーシアム 事務局
京都リサーチパーク(株)山口
info[at]designinnovation.jp([at]を@に変えてください)
075-315-8522
報告:
冒頭、石田先生の当該フォーラムの主旨説明を頂いた後、村松氏の講演、更に参加者を交えての活発な討議、意見交換が行われた。(参加者;24名)
[講演内容主意]
・新材料開発の機が熟し、これをコアに中小型液晶ディスプレーを市場に広めつつ付加価値を高め事業伸長を期すことを目指した。数名の異分野実務者を集めた雑居体制で開始。そこに、新事業立ち上げのために必要な情報・通信商品、デバイス企画設計担当者、経営企画・人事担当者らが加わっていった。
・初動として、まず、命題の確認と共有。継続的に事業展開し成功に導くことを可能とする液晶とはどのようなものかを追求。その中で得た結論は、液晶とそれを駆動する半導体や主要な部品を同一基板上に同時形成する「システム液晶」の製品化。
・指令を受けてから数か月、全体像を一覧できるグランドデザインを仕上げた。ここで改めて、経営資源をどう生かし成功に結び付けるか、課題を整理。
1)「当該液晶は(新事業なので)実績に乏しい」:社内外にどの様に訴求していくか。
2)「当該液晶はひとつの破壊技術と成り得る」:既存技術である『a-Si TFT液晶』と『Duty液晶』との兼ね合い、棲み分けをどのようにして共存せしめるか。
3) 製品化し市場に投入・販売するという一つの事業体としての機能を全うするための組織とミッションの構築。
: ・当該液晶の設計・生産ラインの構築、並びにそのラインを埋める顧客開拓を如何に進めるか
→国内市場を各分野にわたって読み、社内外顧客を知るところからスタート。
・役割分担、責任と権限を明確に。
→当該事業の将来像を描き、どの様に完成させるか、手持ちの技術と新技術開発を整理。それを基にロードマップを描き、定量化(数字化)による具体的な事業展開企画書を策定。
・大きな組織を導くにはビジョン(わくわくさせる絵姿)が必要。みんなが同じ方向を向き、人と人のギャップをつなぐ戦略、戦術が必要であり、それがビジョン。
「液晶Dは心の窓。つなぐ、つながる。 話す、話せる。」
「最先端液晶Dでユビキタス社会の進展に貢献する」
「すべての製品・端末に液晶Dを搭載する」
ビジョンを提示し、その達成過程を共有することで連帯感を醸成。平易な言葉の事業戦略、定量化(ガラスサイズ、日々の投入枚数、投資、売上、利益)目標を明示して、ゴールを共有。
・事業伸長の可視化、増産に見合う顧客開拓が必要。しかし、「工場展開とデザイン・インを同時進行」や「工場展開と先端技術開発の同期化」という課題。突破のヒントは「技術開発者が自ら営業活動を行い、ニーズに耳を傾け、一歩先を行く技術で顧客の心を捉えること」、「顧客ごとの各バリューチェーンでの戦略的活動」。
・鍵市場となる米国と欧州を中心に海外へ展開。留意すべきは国民性の理解(例えば、内向性と外向性、歴史的背景)。実務的には、顧客先ごとにアカウンティングマネージャーを配置し、ある程度の裁量を与え、独自の手法で活動することを容認。
・顧客先との信頼関係を築くためには、
・定期的な顧客状況伺い、先方文化の理解と行動。
・クレームが発生した時にこそ真の信頼関係が問われる。責任者が即現場へ赴き、事態の収拾
にあたる。
・重要な局面での駆け引きはあまりに打算的にならず、迎合的になりすぎず、また妥協し過ぎない。
何れも熱意をもって。
・駐在拠点@ヨーロッパでは、その場で判断できる権限と責任のもと、多国籍グループを束ねるリーダーシップが必要。大切なのは、語学力だけでなく、一人一人の考え方を尊重し、対話を大事にする「コミュニケーション力」。文化・言語の異なる人々を束ねるために、行動スローガン「One voice operation One vector action One day response」を掲げた。
<求められるリーダー像>
・企業に於いて目的を実現する為には、現場と会社の経営層をつなぎ、計画を着実に推進できる強いリーダーシップが必要である。また、リーダーは経験者の力と知見を上手く引き出し、現場の新たな発想とを融合させることが求められる。新しい事業を遂行するには、リーダーが様々な異分野で実戦を通して経験を積んだ者の力を引き出し、活用しながら、集団を動かしていくことが肝要。
・組織は、一人のリーダーだけでは組織は動かない。リーダーの構想展開に沿いながら、夢と現実の真のパイプ役となる右腕的存在や、トップとリーダーの潤滑剤となりえる人材、人材ネットワークを保有する人、企画をまとめられる人、現場をまとめられる人などが必要であり、これらをどのように獲得し配置するか、たいへん重要である。
・高い専門性を有しながら、幅広い視点での企画力・行動力・コミュニケーション力に長けた人材、いわゆるグローバルリーダーのベースを備えた人材の継続的な輩出を当該デザイン学には期待したい。
[主たる討議論点]
1.新規事業の立ち上げにおける技術開発期間、投資、事業企画に要した期間
2. 付与された経営資源のもとでの最大のアウトプットを出す要点
3. 人材の専門力と全体俯瞰力のバランス
4. 海外サプライヤーの国民性
5. クローズドイノベーションとオープンイノベーション
6. 苦難を乗り越えながら新規事業を成功に導くモチベーション
7. 具体的な人材育成方法
5.イノベーションのジレンマ
6.海外顧客の開拓、獲得、信頼関係の確立
7.海外駐在拠点での組織の組成、動かし方
報告の詳細は下記デザインイノベーションコンソーシアムのページをご覧ください。
http://designinnovation.jp/program/design-forum/-vol2.html