電子レンジの「あたため1分」ボタンは便利です。我が家の電子レンジで、私はこのボタンしか押したことがありません。この便利なボタンのおかげで、私はいつものように熱燗を作れます。ただ、昔ながらの湯煎なら、思いがけず今までで最高の(逆に最低の)熱燗を作ることができました。不便であっても最高(最低)の熱燗を作れる家電が欲しいです。ただ、昔ながらのやり方に戻るのはいただけません。文化だけ踏襲して、新しいやり方を考えてください(熱燗に限らず)。
氏名 | 所属 | 専門分野 |
---|---|---|
川上浩司 | 京都大学
デザイン学ユニット |
システムデザイン(不便益) |
平岡敏洋 | 京都大学情報学研究科システム科学専攻 | 人間機械系 |
大野敦子 | パナソニック株式会社アプライアンス社 | |
越前屋俵太 | 俵プロダクション |
自動車が好きで車メーカーに就職した若者が、自動運転技術開発の部署に配属され、ハタと自分は自動車の何が好きだったのかを自問します。自動車があるだけではダメで、自分は運転することが好きだったのだと。料理が好きで家電メーカーに就職した若者が、キッチン家電の部署に配属されて喜んだものの、自動調理装置のデザインを担当することになりました。
このような状況は、近い将来(現在でも)起こり得ることです。そして、その行く末には、自分で運転できる車を持つことや自宅にキッチンがあることなどは、金持ちの道楽に成り下がってしまうのでしょうか?
そう悲観することもないと思います。デザインには、単一の領域に視野をせばめていては解決できない問題を解決する力があります。単純に効率化や高機能化だけを求めていては解決できない問題にたいして、「不便の効用を活用する」という視点からの解決を試みるのが、本テーマです。
キッチン家電を例題にして、自分で料理するという手間をかけてこその益が得られる家電をデザインし(もちろん、昔に戻ってカマドでご飯を炊くというアイデアはNGです)、さっきの家電メーカーに就職した若者を助けてください。
人を含む系(システム)をデザインする際には、効率化(自動化を含む)や高機能化以外にも指針があり得ることを、実体験を通して理解する。さらに、その具体的指針の一つとして不便の効用を採用するときの、デザインメソッドを知る。
不便の効用を活かすというデザイン指針を、実施者(川上と平岡)がレクチャーする。
【デザイン手法】
アイディエーションには、ブレストバトル(ブレインストーミングの4原則を導入した発想段階と、グループ間でのバトルを導入した収束段階から構成される手法)、ならびに大喜利方式の強制発想を組み合わせる。
また、フィールドに埋もれた問題を掘り起こす段階では、探偵ナイトスクープを構想し自ら初代探偵となった越前屋俵太氏の手法を体験する。